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昭和マイルド

スカイレストランで
横浜の海を眺める午後を
[ドルフィン]

昭和40年男が残したもの

姿かたちは多少変化していってはいるものの、長くその場所で、変わらない景色を多くの人に見せ続けてくれている建物もある。横浜の根岸にあるドルフィンはその代表。荒井由実時代のユーミンが70年代に描いた景色を“できる限り”今も守ってくれているのだ。

※この記事は雑誌『昭和40年男』、2025年2月号に掲載したものです。

建物外観を見て思いふける楽しさと同様に、建物から眺める景色にノスタルジーを感じるのもいいものだ。特に“スカイレストラン”で過ごす時間はそれを強く感じさせてくれる。かつてのパーラメントのCMにおけるニューヨークの摩天楼もそうだが、昔は“海と空を望むレストランで優雅な時間を過ごす”というのが妙に輝いて見えた。

同じスカイレストランでも70年代は、1980年代のバブリーなイメージとは異なる。たとえばハイファイセットの歌う、その名も「スカイレストラン」(75年)という曲はどこかノスタルジックで叙情的だし、その歌詞を書いた荒井由実が同年に発表した自身のアルバム『ミスリム』に収録した「海を見ていた午後」も同様の印象を残す。

実在のレストラン、“丘の上にある「ドルフィン」”から見る景色を歌ったこの曲は、実際の建物や場所がよく出てくるユーミンの曲の中でもかなり具体的に描写されている名曲である。若きユーミンが70年代からすでスカイレストランから見る景色にノスタルジーを感じているのも凄いが、この「ドルフィン」が現役で営業しているのにもまた驚かされる(土日は営業開始から来客がひっきりなし)。

絵物語作家の山川惣治によって69年に誕生した当初は白壁の平屋建てで、今とは少し違う場所にあったらしい。現在までに5回ほど経営が変わっているが、82年に2階建てに建て替えられて以降は今の地にある。ただ窓の外にはマンションが建ち、荒井由実が見た景色そのままというわけにはいかないけど、「晴れた午後には 遠く三浦岬も見える」と歌われたように、ここのウリが“建物から見る景色”にあるのも周知の通り。98年に当時のオーナーが景観を考慮し、改装し高さを出してまで営業を続けたこだわりにも脱帽する。

海と空を望むという面でもスカイレストランは横浜がよく似合う。山下公園付近には神奈川県民ホール6階に「英一番館」が、ニューグランドの5階には「ル・ノルマンディ」が、新横浜だとプリンスホテルの最上階に「トップ・オブ・ヨコハマ バーラウンジ」がある。そんな中でも、「ドルフィン」は唯一無二。90年代から健在のコンクリート造りの建物で、歴代オーナーの奮闘で守られているロケーションに酔いしれることができる。それだけで価値があるのに、ユーミンの曲が拍車をかけ、ノスタルジックな雰囲気を何倍にも膨らませてくれるから。

歌詞のとおり、駅から急な坂を上ると現れるネオンサイン。近くには根岸森林公園もあり、とても気持ちがいいから歩いていくのもおすすめ
「海を見ていた午後」が収録されたLP『ミスリム』。ドルフィンソーダを注文すると曲をかけてくれる
ロゴ入りのカップを発見。昔のノベルティもいろいろあるみたいだ
外観。90年代のデザイナーズ感もたまらなくクール。駐車スペースもあり
現在はクローズしている1階バーフロアも見られる

ドルフィン
ランチは「本日の魚or肉料理」が4450円(税込)~。オムライスやパスタなど、アラカルトも豊富にあるのでホームページをチェックしてみてほしい。

住:神奈川県横浜市中区根岸旭台16‐1
電:045-681-5796
月曜休 11:00~21:00

文:トロピカル松村
撮影:深水敬介