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昭和マイルド

昭和洋楽に親しんだ者にとって
忘れられないLPレコードの「帯」

昭和40年男が残したもの

昭和洋楽に親しんだ者にとって忘れられないアイテムが「帯」。洋楽を普及する役目を担った長方形の紙片は、フォント、邦題、デザインで強烈な個性を発揮した。ここでは日本独自の音楽文化となった帯の逸品を見ていこう。

※この記事は雑誌『昭和40年男』、2022年12月号に掲載したものです。

1960年代初頭、洋楽はなじみの薄い舶来品だった。ならば、アーティストの個性と歌の世界観を日本語とデザインで伝え、レコード屋の棚で目立たせよう。そんな挑戦からレコード帯は誕生した。その試みは当時のシングル盤の邦題やジャケットにも見受けられる。

帯文化の黎明期には、ベンチャーズのロゴやビートルズのレコードの文字デザインを手掛けたレタリング職人、竹家鐵平やピンク・フロイド『原子心母』の名付け親である伝説の洋楽ディレクター、石坂敬一らがイマジネーションを爆発させる。

やがて帯は時代の空気を反映しながら、クリエイティブな邦題、キャッチコピー、文字&全体のデザインであふれ、洋楽ディレクターが過剰な洋楽愛を発散する場となっていったのだ。

そのなかからキッスといえば”地獄”のように、邦題がアーティストイメージをリードし、日本での人気を押し上げた好例も生まれた。時にはやりすぎて失笑ものもあったが、それは愛嬌ということで……。
受け取る側は邦題と帯から音をイメージし、レコードを手に取った。こうして帯は日本独自の音楽カルチャーとして輝いた。

ピンク・フロイド
原子心母
革命的な邦題の命名者は東芝EMIの伝説ディレクターの石坂敬一。「洋楽を売っていても、そこに日本的心情を込めないといけない」という思いから考案された。
アイアン・メイデン
鋼鉄の処女
バンド名とタイトルを直訳した邦題が強烈。その衝撃と伊藤政則の後押しもありブレイク。その後のアルバムの邦題もこの路線が続く。
ゴーゴーズ
バケーション
ライトでネアカな80s初頭のギャル文化を伝えるデザインは、どことなくセーラーズなどおニャン子クラブテイストにも通じている。
スージー・クアトロ
陶酔のアイドル
毛筆体の文字デザインも帯文化の十八番。カタカナの筆使いが斬新だったが、今となっては外国人観光客向けグッズの雰囲気に近い?
キッス
地獄のロック・ファイアー
キッスと言えば地獄。デビュー作から始まった地獄邦題シリーズもさすがにネタ切れになったのか、第5弾の本作で一度打ち止めに。
エイジア
詠時感
無茶な当て字は失笑だが、読みにくい子供の名前や、キャッチコピー(軽井沢のルビに“さわやか”とか)が出始めたのが80年代だった。
Tレックス
電気の武者
石坂敬一によって、イギリスのイメージを日本風に替えて命名された傑作。当初は「電気の武士」だった。
スコーピオンズ
蠍団爆発!! スコーピオンズ・ライブ
代名詞は「蠍団」。ファーストから「恐怖」「電撃」「復讐」「狂熱」「暴虐」の蠍団と続き、このライブ盤で「爆発!!」した。
マイケル・シェンカー・グループ
英雄伝説
レコード店員で村田英雄のコーナーに置いてしまったというエピソードは『ミュージック・ライフ』ネタだが、ウソかまことか。デビューアルバムの邦題は『神』だった。
カルチャー・クラブ
カラー・バイ・ナンバー
ジャケと帯に大顔がフィーチャーされ、レコードを持った人はまさに蛇に睨まれたカエル状態に。買わねば、という強迫観念が生まれる。
ブロンディ
妖女ブロンディ
NYパンクの歌姫は場末のビッチにして天使。路地裏の二番館でかかる愛すべきB級映画風のフォントがドラマを掻き立てる。
エアプレイ
ロマンティック
傑作orそうでもない? 評価二分のドポップAORの帯には「溢れるロマンティック感覚!!」のキャッチが踊る。
クラフトワーク
エレクトリック・カフェ
ブルブル震えているフォントで、(当時は)電脳感をブースト。テクノの先駆者らしく別作品の邦題が「放射能」「人間解体」とつけられているのもさすが。
ウイークエンド
週末精選
知的でシャレオツな週末ライフを提案するかのような邦題がピント外れだが、帯にドンと打ち出すことで問答無用の迫力を生んだ。
マッドネス
ライフ・アンド・フォール
出演CMでのコミカルな一面を強調した落語の演目のようなフォントは、やり過ぎの感があり音楽のイメージができない。
ブラック・サバス
悪魔の落とし子
「13日の金曜日」にデビューしたバンドにふさわしい呪術的な邦題。ジャケの異形の赤ん坊、紫と赤の配色も不穏だ。
クイーン
華麗なるレース
バンドの持つ華やかさと派手なジャケットから邦題が付けられ、それをデザインしたフォントが美しい。大仰ながら、けして誇張ではないコピーもまた秀逸。
ボビー・コールドウェル
シーサイド・センチメンタル
「マティーニを、3杯……」のキャッチがバブル感満載。DCブランド&カフェバーで浮かれた時代の歴史遺産的帯。
エアロスミス
ロックス
ゴールドの下地に踊るスティーヴン・タイラーの大胆不敵なコメントが強烈。ロックスのフォントも迫力満点で、帯全体で名盤を演出。
セックス・ピストルズ
勝手にしやがれ
金まみれの奴らぶっ潰す「勝手にしやがれ」は邦題&帯デザイン史に残る破壊力。「犯すのは君だ!!」のキャッチも燃える。
文:竹部吉晃
帯提供:植村和紀、福田直木